読書感想文:佐藤達郎『自分を広告する技術』


自分を広告する技術 (講談社+α新書)

自分を広告する技術 (講談社+α新書)


共同研究グループのメンバーとしてお付き合いをさせていただいている佐藤達郎氏による2冊目の新書。昨年の発売後すぐに買ってはあって、長いこと読まずに放っておいていたのを、こないだの大阪への行き帰りで一気に読了。なかなかおもしろかったので、少し感じたことを書いてみようと思う。


この本は、タイトルの通り、「自分を広告するためにはどうすればいいのかを広告戦略立案のアナロジーを駆使して解説する」というものであり、就活学生や若手社員にはとても使い勝手のいい内容だと思う。読みやすく、また事例も豊富でわかりやすいので、あまり普段本を読まない人であってもしっかりと理解ができると思う。個人的には、就活生には必読の本であると思う。


その上で、僕が思ったのは2つ。1つは、実はこの本は、広告戦略立案の初級教科書として非常に良くできているのではないかということ。広告目的を策定し、what to sayとhow to sayを考え、メディア・プランニングをした上で実施する。ソーシャル・メディアへの配慮もしっかりと怠らない。これは言ってみれば「広告関係者には」当たり前のことだが、既存の本で(しかも文庫や新書で)ここまで『わかりやすく』説明しているものはないので、学生に広告制作をさせる際の導入書としてうってつけではないかと思うのだ。この本を読了したあと、僕は、3回生(=この秋から就活がはじまる学生)に「タイトル通りの意味で」読んで感想を書く宿題を課すと同時に、釜山国際広告祭に連れて行く学生には「広告戦略立案の基本スキームの学習のために」この本を今日の合宿までに読んでくることを課した。学生たちは授業で広告制作のことを直接学んでいるわけではないので、この本は大いに助けになると思うからだ。


もう1つは、この本が「自分を広告することに気づいている」若者に向けて書かれているということ。これはこの本のある種の限界であるかもしれない。同書のP.25には次のように書かれている。

ビジネスマンあるいは仕事人としての君は、「選ばれなければならない運命」にある。そして、「選ばれなければならない運命にある」ということは、嘆くべきことでもなんでもなく、少しドキドキするけど、努力のしがいのあること、工夫のしがいのあること、楽しいことだと、ボクは思う。


しかし、僕が周りを見る限りにおいては、仕事を「生活のための単なる手段」と見なし、そこに工夫をすることでworking lifeを楽しむということなど思いつきもしないような若者(学生)が増えているように思う*1。「残業なしで、土日はしっかり休める」ことを就活の際の企業選択の一番の基準にしている学生も一人や二人ではない。出世欲などまるでなく、人並みに仕事をしているだけでは給料が増えない可能性について思いが至っていない*2し、バイトと正社員の仕事にはそれほどの差なんてないと思っている。仕事を楽しもうなどとは思っていないから、別に自分のことを広告しようなどとはまるで考えないのだ。


以前佐藤さんと話をしていたときに、彼の周りの若者はそうではなく、最低限のやる気を持っているとのことだったが、同時に彼自身彼の周りの「特殊性」を認めていた。大学教員としては、そうではない人に仕事の楽しさを感じさせ、また、自分を売り込むことの重要性を感じさせねばならないと思う。それをどうするかまでは、この本では述べていない。このことは最初から同書の埒外だと言ってしまってもいいのだが、なにかしらの啓蒙を試みている書だからこそ、やはりなにか物足りなさを感じてしまう。


ここのところをどうにかしたいと思いつつ、たとえばゼミであっても、自主的にがんばる方が自分のためにもなるし、僕のオボエもめでたくなる(そしてこのことは大事なことだと僕は考えている)のだとは直接的には言いにくいから、どうすれば伝わるだろうかと模索し続けている感じがする*3。秘技「酔ったふり」に続く第2弾として*4、秘技「ブログに書いてみる」を試してみているわけだが、はたして効果の程や如何に*5

*1:仕事というのは、それを通じて社会に貢献するものでもあるということがアタマからすっぽりと抜け落ちている学生が多いという話もあるのだが、これはまた別の機会にでも。

*2:つまり、年功序列型賃金制度を無意識のうちに信奉している。

*3:成績評価の際にはえこひいきで考えずに評価基準に沿って評価することは言うまでもない。それに、ゼミ生は僕にとってはどの1人をとってもかけがえのない存在であり、愛すべき存在であることもまた、言うまでもないことである。念のため。

*4:なぜ学生は教員を飲みに誘わないのか、不思議でしょうがない。僕なんかは教員としては若い方で、他の先生よりはだいぶと誘いやすいだろうに。

*5:とまで書いても、コメントする学生は少ないだろうなぁ。このブログのコメント、TW、FB、mixi、メールのどの手段を通じてかに依らず。ましてや直接このことを僕と議論しようと思う学生はいるのだろうか……。