僕の感情はどこかにいってしまったのだろうか。


ぽっぽおっちゃんが亡くなった。


10日ほど前、母親からのメールで、買い物に出ようとしていたらしいおっちゃんが道端で倒れているのを近所の人が見つけて、救急車で運ばれたが、意識不明で脳死状態だということを知った。数日前にICUを出て、そして、亡くなった。


ぽっぽおっちゃんは父親の親友の1人で、僕が生まれる前から僕のことを知っていた。小さい頃はうちの家族とおっちゃんの家族とでごはんに行ったりプールに行ったりしたことを憶えている。実家のアルバムにはその頃の写真もあるだろう。


ある種の脱サラをして居酒屋をはじめたおっちゃんのところには、高校・大学時代にはしょっちゅう飲みに行っていた。初めの頃はいつもブルーハワイ、そのうち呉春の味を覚えた。日本酒をまともに飲みはじめたのはおっちゃんの店での呉春からだ。


その後、別に行きつけができたこともあり、また新潟赴任もありで、足は相当遠退いていた。ここ10年は1年に2度も行けばいい方だった。


数年前に倒れたおっちゃんは、それでも酒を止めなかった(控えはしていたかもしれない)。体調は悪そうではあったが、昨年のライブでは相変わらずの味のある(つまりは、決して上手くはない)ドラムを叩いていた。学生時代から続くバンド、うちの父親もメンバーのバンドで、いつも一番黄色い声援の飛ぶバンドメンバーがおっちゃんだった。


最後に会ったのは1ヶ月ほど前、うちの院生がそのバンドのリーダーにインタビューをしたときに、調査場所としてお店を使わせてもらったときだ。弱ってはいたが、まぁ、こんなもんだろうという感じだった。来週の僕の初ライブのチラシを渡して、貼ってもらうことにした。


そして、今朝、亡くなった。


不思議と心がかき乱されることもなく、悲しいのかどうかもよくわからず、淡々と事実を受け入れているという感じだ。もしかしたら今後ふとした瞬間にくるのかもしれないが、今は少なくともそんな感じだ。夕食を作る気にならなくて外に食べに出てきたくらいなものだ。


祖父が倒れたときも、うろたえるばかりの父親の横で、やけに冷静でいたのが僕だ。僕の感情はどこかにいってしまったのだろうか。祖父も倒れて、もうだいぶ経つ。


ぽっぽおっちゃん、どうか安らかに……。